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山崎豊子著「ムッシュ・クラタ」

*追記 10/20
気になって最後を見てみたのですが、
ムッシュ・クラタの妻のこの言葉、
ムッシュ・クラタの人生が幸せだったこと、物語っています。
「倉田は、確かに沢山の欠点をもった人間でございますが、倉田ほど自分の生き方に信念を持って生きた人間は少ないと存じます。それだからこそ、妻にも子供にも、迷うことなく自分の生き方を押しつけたのだと思います。」


山崎豊子著「ムッシュ・クラタ」_e0172219_21544711.jpg
丸善に専用コーナーができていて買った山崎豊子女史の作品。
ムッシュ、にも、クラタ、にも惹かれて手にとりました。

山崎豊子さんの小説は、たぶん「沈まぬ太陽」以来です。
旅行会社に勤める友人が
「もちろん読んだ、職業柄思うところがあった」
と話すのを聞いて、
「カッコいい、、」と思い真似して読んだのです。
筋はよく覚えていないのだけれど、
のめりこむように読んだことや、
これが実際にある話ならひどい、
と思ったことを強烈に覚えています。


9月29日、この世をさられた山崎豊子さん。

山崎女史といったら社会派小説です。
けれどこの本は社会派小説ではない。
へえ〜こういうのも書かれていたんだ、と、
ついニヤニヤしてしまうような世界です。
硬質のミネラルウォーターの飲みにくさを覚悟していて、
飲んだら軟質で、飲みやす〜い!と嬉しい拍子抜けをしたみたいな感じ。

場面の描写が鮮やかすぎないので、
妄想をかきたてられます。
丁重な言葉づかいで姿勢を崩さず、
フランスをこよなく愛するムッシュ・クラタ。
毎朝新聞の海外特派員としてパリに駐在もし、
職務に誠実でそれがどこか突き放すような冷たさにもとれて、
たまに窺える家庭人としての下りには、
この人も人の子なんだとたびたび思わされるくらいに、
なんだか自分本位です。

印象深いのは日本で部下の女性に奢る、
フレンチレストランでの食事のエピソード。
うんちくをたれて、言葉づかいもへんだし、
このあたりはまだただの面倒なじーさんです。

次に、フランスを訪ねた映画会社の社長にはからった
ムーランルージュでの大散財のエピソード。
金額は書かれていないけれど、
相当な額をさらりと支払い周囲の度肝を抜きます。
(接待費として通らない、ということが後から判明します。)


そして、カンルバンの捕虜収容所での慣れぬ労役のエピソード。
やせ細りながらも親切を断り、
身装を整えパイプと本を手にし続ける姿に、
本当に強いのは武装した戦士たちではなく、
倉田氏のような人のことをいうのではないか、という下りではもうかなり、
ただのじーさんではなくなってきます。

派手で一般的でない。
自他ともに認めるダンディな生き方。
常に自信を失わない謎めいた倉田氏の素の顔が、
4つのエピソードを通して少しづつあらわになるのが面白い。
読み手はだんだんに、
この人は本当は深い人間らしさと優しさを隠しているのではと、
気づきはじめます。

だからこそ胸を打つのが、冒頭の場面です。
これを先に真実を見せられているから、
あとのどのエピソードも憎らしく映らない。
破天荒で人騒がせなだけではないのです。
ぶれない生き様を素敵だと思わずにいられませんでした。

薄い小説をひといきに読み切りたいとき、
昔の日本やフランスにタイムトリップしたいときに、おすすめ。
ぜひムッシュ・クラタに会ってみてください。

〜おまけ〜
Facebookにかきましたが、タイトルをみてまず思い出したのは、
鎌高のグラマーの倉田先生。
外人みたいな顔していて、
鼻がたかーくて、髪の毛がもしゃもしゃで、色が白くて、
こわーーーい。
授業の前はみんなすごく緊張してました。
私は実はあんまり怖がってなかったけど、
予習とかやらないわけにはいかなくて、
最後はグラマーが好きになってきた。
クラちゃん、今思うとすごい先生だったなー。

大学の先生もしていたのか.
なんだかロマンスカーにのって定期的に東京にいく話が印象的で、
小田急線を使うたび思いだすから、
倉田先生、全然忘れてないです。

「私は毎週◯曜日に東京にいくのにロマンスカーに乗るんだけれどねえ。
必ずカツサンドとレモンティーを頼む。これが旨いんですよねぇ。」
日本酒のCMみたいにいい顔してました。

高校生だった私にはロマンスカーでカツサンドを食べることが
日課だというのがものすごくカッコよくみえて、
そのブルジョワで少し冷徹な感じが、
ムッシュ・クラタとなにか共通なのです。
年齢とか計算するのが怖い!
今もカッコよくいてほしい倉田先生なのでした。
by iiyo-ok | 2013-10-19 21:25 | みほこライフ